私の職場で、また退職者が出ました。
珍しいことではありません。
しかし、残念なことに新しい人はなかなか入ってきません。
たとえ採用できたとしても、長く定着するかは運任せ、ギャンブル的になっています。
そんな職場の雰囲気は当然、悪化の一途をたどっています。
この状況が続けば、いずれ組織として立ち行かなくなるのではと危惧し、私も退職が頭にチラつき始めているところです。
私の職場は「人を大切にしている」とは到底言えない環境です。
人が次々と辞めていくにもかかわらず、上司は深刻な危機感を抱いていないように見えます。
そして、その職場で働く私たち自身も、高いモチベーションを保てず、精神的な余裕を失いつつあります。
なぜこのような状況に陥ってしまったのか?
それは、会社全体の組織構造と、それに無自覚な「経営者」と「上司」の存在に他なりません。
今回は、人を大切にしない職場の真実を抉り出し、私たちがどう働くべきか、そして上司や経営者が学ぶべき「真のマネジメント」について解説します。

なぜ人は辞め、職場は停滞するのか?
1. マネジメント能力が低い上司の「罪」
人が辞めていく原因の一つに、マネジメント能力の欠如した上司の存在があります。
特に「部下や部下の仕事に興味がない上司」は、職場に深刻な悪影響をもたらします。
| 無能な上司の具体的な特徴 | 職場に与える悪影響 |
| 現場の実態を把握しようとしない | 部下は「報連相(報告・連絡・相談)しても無駄」と感じ、必要な情報が上層部に届かず、意思決定が遅れます。 |
| 部下の能力や悩みを理解しようとしない | 部下は公正な評価や適切なフィードバックを得られず、心理的安全性が損なわれます。結果、エンゲージメント(貢献意欲)が著しく低下します。 |
| 責任を取らず、部下に転嫁する | トラブル発生時に責任逃れをする姿勢は、組織の結束力を弱め、部下の挑戦意欲を完全に奪います。 |
| 指示が曖昧で、マイクロマネジメントに走る | 部下の裁量を認めず、細かすぎる介入は自律的な成長機会を奪い、結果的に業務効率を低下させます。 |
2. 現場の状況を見ない欠陥会社の「罪」
人が職場から辞めていく原因の根底には、上司のマネジメント能力の低さだけでなく、組織の構造的な問題と、そこから生じる深刻な「勘違い」が存在します。
特に、私の職場で起きていると見られる、以下の3つの問題意識は、多くの企業で離職の連鎖を引き起こす「組織の病巣」です。
- 頭数が揃っているから人が充足していると「勘違い」している
会社に在籍している社員の「数」だけを見て、人手が足りていると判断するのは、最も危険な勘違いの一つです。
これは「機能的充足(Functional Sufficiency)」が全く考慮されていない状態です。
優秀な人が辞めた穴を埋めた新人が、その業務を十分に遂行できていない、あるいは教育に追われて既存社員の生産性が落ちているという「組織機能の低下」を見逃しています。 - 職場が運営されているから問題ないと「勘違い」している
業務が表面的に回っている、あるいは短期的な成果が出ている状況を捉えて、「現状維持で問題ない」と判断するのは、将来への投資を怠る「経営上の怠慢」です。
職場運営が成り立っているのは、残された社員が心身を削りながら無理をしている結果である可能性が高いです。
上司や経営層は、この「サイレント・クライシス(静かな危機)」に気づいていません。 - 職員の能力、育成具合を「把握していない」
従業員を駒や歯車としてしか見ていない会社は、社員がどの程度成長し、どのようなキャリアを望んでいるかを全く把握していません。
これは、人的資本(Human Capital)の価値を理解していないことを意味します。
部下のスキルや適性を把握していないため、不適切な人材配置(ミスマッチ)が発生し、社員のパフォーマンスが上がらず、不満が蓄積します。
また「適切な指導とフィードバック」ができず、指導が不足することで、社員は自身の成長実感を得られず、仕事へのエンゲージメント(貢献意欲)が低下します。
特にキャリア意識の高い優秀な若手ほど、成長できない職場からは早々に見切りをつけます。
育成や評価の基準が曖昧では、上司の主観や感情に左右されると、人事評価に納得感が持てず、「正当に評価されない」という不公平感が組織全体に広がり、離職の直接的な原因となります。

人を大切にしない組織が辿る末路
人を「コスト」や「手駒」としてしか見ない企業は、長期的に見ると必ず衰退します。
これは短期的な利益追求のツケが、数年後に「人材流出」という形で組織の中核を崩壊させるためです。
【事例:組織崩壊の典型的なシナリオ】
- 慢性的な不満の蓄積(サイレント・クライシス):長時間労働、不公平な評価、不透明な給与体系などへの不満が溜まります。
- 突然の大量退職(タレント・アクセルレーション):不満が一定量を超えた優秀な人材から順に辞め始め、残った社員の業務負荷が急増します。
- 事業継続への深刻な影響:残された社員もモチベーションが低下し、ミスが増加。製品・サービスの質が落ち、顧客からの信頼も失墜します。
- 採用市場での悪評拡散:離職率の高さや悪い評判が広まり、新たな人材を確保できなくなり、組織は「負のスパイラル」に陥ります。
私たちが「尊厳を守り」働くために
このような組織で働き続けることは、私たちの心身を蝕み、将来のキャリア形成にも悪影響を及ぼしかねません。
私たちが自分自身を守りながら働くために、どのような行動をすればよいのでしょう。
- 目標と成果の「可視化」:上司の興味が薄くとも、自分の目標と達成した成果を数値や具体例で記録し、「仕事のエビデンス」を作成しましょう。
これは、不当な評価を防ぐための防御策であり、転職活動時の強力な武器にもなります。 - ボスマネジメントの実行:マネジメントができない上司には、部下側から「どのように動いて欲しいか」を具体的に提案する「ボスマネジメント」が有効です。
連絡は「言った、言わない」を防ぐため、メールやチャットなどテキストコミュニケーションを基本とし、必要な情報を残します。 - 社内・社外の「横のつながり」強化:直属の上司を介さなくても仕事を進められるよう、他部署のキーパーソンや社外の専門家とのネットワークを構築し、孤立を防ぐ安全網を張りましょう。
- キャリアの「出口戦略」を持つ:今の職場で成長機会が得られない、心身の健康が損なわれると感じたら、冷静に転職や異動の準備を進めましょう。
人を大切にしない職場で「耐え続けること」は美徳ではありません。

まとめ:より良い職場を築くための提言
私たちの職場がより良い場所になるためには、上司や経営層による根本的な意識改革と行動が必要です。それは、「人を大切にする経営(Human-Centered Management)」を実践することに尽きます。
上司・経営者が今すぐ学ぶべき3つの教訓
- 心理的安全性の確保と傾聴
- 部下が恐れずに意見や懸念を言える環境を最優先で整備することです。
部下の話を傾聴し、現場の「生の声」を把握しなければ、真の課題は見えません。
- 部下が恐れずに意見や懸念を言える環境を最優先で整備することです。
- 成長機会への「投資」と公正な評価
- 社員教育や研修を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉えることです。
また、評価基準を明確にし、公正かつ透明性のあるフィードバック(ポジティブ面、改善点)を継続的に行うことで、部下の内発的動機を引き出します。
- 社員教育や研修を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉えることです。
- 責任と権限の適正な委譲(エンパワーメント)
- マイクロマネジメントを止め、部下に適度な権限と責任を委譲し、主体性を持って働いてもらうことです。
上司は「部下の成功のためのサポート役」に徹し、失敗した場合は全責任を負う覚悟を持つべきです。
- マイクロマネジメントを止め、部下に適度な権限と責任を委譲し、主体性を持って働いてもらうことです。
人が定着し、成果を出せる職場とは、「管理」される場所ではなく、「信頼」と「成長」がある場所です。
無能な上司と欠陥構造の会社に苦悩されている方は、心身の健康の為、職場との付き合い方を見直してはいかがでしょうか。
私もこの職場に残るか残らないか、しばらく悩んでいきたいと思います。

